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WOL←バッツ
熱い。
目頭が酷く熱くなって、こみ上げてくるものを抑えられそうになくなる。
唇が戦慄くのをなんとか抑えようとしても、力が入って逆効果だった。
「バッツ」
俯いたままのおれに彼が声をかける。たぶん真っ直ぐにおれを見ているんだろう。その姿は単純に想像できた。
「バッツ」
もう一度、彼がおれを呼ぶ。何も返事は出来なかった。それなのに彼の声は酷く優しい声だった。
あまり声のトーンが変わらず、周囲からは時折あまり感情が読めないと言われている彼だけど、おれはそうは思わない。今だっておれの名前を呼んだまるで子供をあやすように、落ち着いた穏やかな声で、ぐっと呼吸が詰まった。
「どうかしたのか」
俯いたまま返事をしないおれを心配している声。彼の言葉のその通りだと思った。
おれはどうかしてしまった。だから、思い出してしまった。だから苦しくなった。
自分の拳を握り締める。
躊躇いがちに伸ばされた手が、おれの髪を撫でる。あまり慣れていないのかぎこちない彼の手が彼の精一杯のような気がして、歯を食いしばることで何とか堪える。
許されるのなら叫んでしまいたかった。
こうして彼の手が、おれの髪を撫でるのは初めてなのに初めてではない事にきっと彼は気付かない。否、彼は知らないのだ。廻る輪廻の中で彼だけ。
これは言ってはいけない事だ。
何度も繰り返す輪廻の中で、ただ1人特別な人。
前にも馬鹿なおれは、彼に何かとびきりの、励ますような言葉を考えたこともあったが、結局どれも口にすることはなかった。その言の葉ひとつひとつが、考えれば考えるほど軽薄で無責任にしか思えなかったからだ。
俯いたまま眼を瞬く内に結局、目の前が水で膜を貼ったみたいに視界がぼやけていく。
ずっと、何も言わないおれに呆れることもしないで、やさしい、やさしい人。
おれはこの事を覚えていくんだろうと思う。あと、何回輪廻が廻ったとしても。その時、忘れていたとしても、きっと思い出す。
「バッツ」
言わなければいけない。今まで考えたような言葉ではなく、彼がしてくれたような、柔らかな色の花が咲く地で通り過ぎる、穏やかな風のような、彼の傍に在るような言葉を。ただ、その言葉が、自分が思うような結果を得るとは思わない。けれど今言わなければいけないと思った。
意を決して、それでも重たげに面を上げると彼の眼は想像通りしっかりとおれを見据えていた。
綺麗だと思う。凛としたその姿は確かに光の戦士のものだった。それが悔しいと思うのはおれだけだろうか。下ろされた彼の手にそっと手を伸ばす。
「…好きだよ」
触れた彼の手が僅かに動いた。呟いた言葉が、彼の耳に届いたのがわかる。
たとえ今の輪廻だけだとしても、せめて彼に優しい言葉を残したかった。それが、おれのたんなるわがままだとしても。