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時々の萌えをつらつらと

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ライバツ


攫われる。

触れるたびに、胸の内に不可解なものが生まれた。

風に吹かれた火の様にゆらゆらと揺らめくのは何故だろうと思いすぐさま胸の内で否定した。答えは簡単だった。失った記憶よりも、光のない道を行くよりもただ、不安なだけだった。

届かないものが目の前にある。目の前にあるのに届かないのだ。
気付いた事実に意図も簡単に打ちのめされた。
水面下に漂っていた、想いが光に誘われ水面に顔を出し、強すぎた光に焼かれてしまった。

真っ黒に焼けた筈なのにまだ其れは生きている。なんとおぞましい事だろうか。
押しつぶされそうな息苦しさに目を瞑って耐えた。

「好きじゃないのか?」

黙ったままの私の姿をどう捉えたのか、彼にしては低く抑えられた声だった。


「そういうものではない」

間違いとなどと言い訳をするつもりはなかったが、其れで終るようなものでもないだろうと思う。否、そう思いたかったのか?
ただ、欲しいからと手にすることなど出来ない。してはならない。

終わりは見えている。

「でも、大切なことだろ」

お前が其れを言うのか。ゆらゆらと揺れる火は消えない。寧ろその勢いを増すように。おぞましい感情がざわめく。

「なぁ、目を瞑っていても何も見えないぜ?」

器用で純粋で、時に的外れな、そして時に的確に人を揺さぶる。醜い塊がざわめき続ける。
一歩も動くことのない相手にどうすることも出来ずに瞼を上げれば、彼の酷く真摯な眼差しに出会った。

「・・・、」

私はなんと言おうとしたのか。何の音も発することもなく間が抜けたように出た息を風が持ち去った。

逸らされることのないその瞳に宿った覚悟に逃げ場は何処にもないと知った。何からも逃げることをしないと言ったのは一体どの口か。

けれど、逃げ場など本よりそんなものは初めからなかったのかもしれない。此処で確かに出会っているのだから。
ぐい、と力に任せ引き寄せられ顔を近づけられる。その急な行動に僅かに戸惑いながらもその視線から目を逸らすことは出来なかった。

「勝手に、決めんなよ。」

噛み付くように放たれた言葉。一体その言葉がどういう意味を持つのか。知っているのか。次いで、ぶつかる様に触れた唇の感触。再度、見た揺るがない瞳にどこか遠くで醜い歓喜の声が聞こえた気がした。

「俺のことは俺が決める。勝手にき、」

めるな。と、おそらく続いただろう言葉諸共、口腔に飲み込んだ。

咄嗟の出来事に強張った身体を掴み、再度口付けた。
拒む反応を見せない相手にだんだんとエスカレートしていく。

何も考えられない事は恐怖だった筈なのに、今は只、何も考えずに求めていたかった。


「・・・は、」

上がった息を整えながら、もう一度顔を近づけると咄嗟に手で遮られた。けれど、その手は直ぐに下ろされた。

「・・・こういう時は、目を閉じるもんだぜ」

彼は少し照れたように、それでいて少し呆れた笑いを見せた。

子供と大人が同時に混在するその姿に、醜く焼け残った残骸は、何も言葉を返すことを出来ないまま視界を閉ざし吐息を奪った。



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