時々の萌えをつらつらと
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ライバツ
彼のそんな表情は初めて見た筈なのに、どこかで見たように思うのは何故だろう。
「なにもないところはこわいよ」
いつもの明るさはどこにいったのか、瞳は伏せられ、酷く老成した表情だった。だというのに、幼子が話すようなつたない言葉だった。
「はっきりとは覚えてないけど、たぶんおれはそこにいたんだと思う。」
肌寒いのか、彼は時折、腕をさすっている。寒いのかと、尋ねれば大きく目を瞬き大丈夫、と苦笑した。
「寒いとかそういうのもなかったかな。どうだったろう。」
そう呟く彼の顔色は悪い。青ざめている、というよりは色がない。ゆるりと手を伸ばし彼の頬に触れると、彼は少し戸惑ったもののまるで猫のように私の手に頬をすり寄せた。
「あったかいな。あたたかい。」
彼の動作もゆらゆらとゆれる炎も酷くゆっくりと感じられた。彼から吐き出された安堵の吐息が何故か胸に響いた。これは、一体なんだろう。
「此処にいる。」
自分でも分からないうちに言っていた。ちらりと覗うように彼の瞳が私へと向けられる。
「私も君も、此処に」
私の手に彼の手が重ねられ、彼は破顔した。
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